本記事は、小説が原作であるふたつの映画『アンナ・カレーニナ』と『ボヴァリー夫人』を紹介します。
どちらも度々映画化や舞台化などされている有名作品です。
それぞれ特徴や見どころがありますが、共通している部分も多く、比較をするとまた面白いです。
『アンナ・カレーニナ』と『ボヴァリー夫人』の共通点
映画『アンナ・カレーニナ』と『ボヴァリー夫人』について、個人的に「共通している」「似ている」と思う点をまとめてみました。
※ネタバレも含みます。
- 原作が著名な小説
- 主人公の女性が裕福(働いていない)
- 若くして結婚する
- 夫が生真面目
- 不倫する
- 最終的に自殺する
画像引用元:Letterboxd
『アンナ・カレーニナ』の概要
原 題 :Anna Karenina
製作年 :2012年
製作国 :イギリス、アメリカ
ジャンル:伝記、ラブロマンス、ヒューマンドラマ
上映時間:2時間10分
監 督 :ジョー・ライト
原 作 :ロシアの小説家レフ・トルストイの同名小説
主な受賞歴:第85回アカデミー賞・衣装デザイン賞
メインキャスト
アンナ・カレーニナ – キーラ・ナイトレイ
アレクセイ・カレーニン伯爵 – ジュード・ロウ
アレクセイ・ヴロンスキー伯爵 – アーロン・テイラー=ジョンソン
ステパン・オブロンスキー公爵 – マシュー・マクファディン
ダーリャ・オブロンスカヤ公爵夫人 – ケリー・マクドナルド
コンスタンティン・リョーヴィン – ドーナル・グリーソン
エカテリーナ(キティ)・シチェルバツカヤ – アリシア・ヴィキャンデル
エリザベータ公爵夫人 – ルース・ウィルソン
ヴロンスカヤ伯爵夫人 – オリヴィア・ウィリアムズ
リディア・イワノヴナ伯爵夫人 – エミリー・ワトソン
アレクサンダー・ヴロンスキー伯爵 – ラファエル・ペルソナ
ソロキナ嬢 – カーラ・デルヴィーニュ
画像引用元:fashion-press.net
あらすじ
魅惑的――その言葉は彼女のためにあった。アンナ・カレーニナ、19世紀ロシアの社交界に咲いた華麗なる大輪の花。夫は政府高官のカレーニンで、ひとり息子のセリョージャと共にサンクトペテルブルクに暮らしている。ある日アンナは、兄オブロンスキーの浮気が原因で壊れかけた兄夫掃の閉係を取り持つためモスクワを訪れ、そこで若き将校ヴロンスキー伯爵と出会う。
ヴロンスキーはアンナの輝く瞳と優美な微笑みに一目で引き込まれ、アンナも彼の眼差しに心が波立つ。兄の妻ドリーの説得に成功したアンナは、ドリーの妹のキティに頼まれ舞踏会に出席することに。かねてからヴロンスキーに想いを寄せるキティは、そこで彼からプロポーズされると信じており、そのために友人として大好きだった田舎の地主リョーヴィンからの求婚も断っていたのだ。
ところが――ヴロンスキーはもはやアンナしか目に入らない。アンナもまた、燃え上がる情熱を抑えることが出来なかった。互いの想いをぶつけあうようにヴロンスキーとマズルカを踊った後、アンナは逃げるようにモスクワ発の夜行列車に飛び乗る。夫と息子の待つ、平利で安全な家を目指して。列車が途中停車した駅で、気持ちを鎖めるために外の空気を吸いに出るアンナ。そこヘヴロンスキーが現れる。「あなたのおそばに」――彼が口にしたのは、アンナの魂が求める言葉だった。アンナは理性を振り絞って「忘れなさい」と拒絶し、車内に戻る。だが、その日からヴロンスキーは、常にアンナのそばに現れた。社交界でも、アンナがモスクワから“影”を連れ帰ったと囁かれ、軽蔑の視線と心ない中傷が彼女に降り注ぎ始める。やがてそれは夫カレーニンの耳にも入り、体面を気にする彼は、軽率さで世間に恥を晒すなと忠告する。
18歳で恋のときめきも愛の痛みも知らずにカレーニンと結婚したアンナは、初めてそのすべてを教えてくれたヴロンスキーと結ばれ、ついに自ら夫 に告白する――「ヴロンスキーを愛している」と。動揺を抑え、何もなかったように振る舞えと冷たく言い放つカレーニン。だが、アンナは既にこの愛にすべてを棒げると心に決めていた――。
『アンナ・カレーニナ』の個人的な感想
豪華な舞台劇
本作は映画全体を舞台劇とし、場面転換の際に映像が隣のステージに移動するという、独特の手法を用いています。
そのため、フィクション感を強く感じてしまい、最初は物語にのめり込みにくいのが、個人的には逆にマイナスに感じてしまいました。
しかし、アカデミー賞で衣装デザイン賞を受賞していることもあり、衣装だけでなく舞台セットは豪華絢爛で目を見張るものがあります。
アンナとヴロンスキーがマズルカ(ダンス)を踊るのシーンは特に格別です。
役者の魂揺さぶる演技
そのうえ、役者一人ひとりの演技が素晴らしく、感情表現もとても豊かで、見ていてだんだんと波瀾万丈な物語に引き込まれていきます。
主役アンナを演じるキーラ・ナイトレイは「時代劇の悲劇の女性を演じるならこの人!」と思えるくらいハマっていますし、よく登場します。
本作の他、『つぐない』『ある侯爵夫人の生涯』『危険なメソッド』『シルク』・・・と、思いつくだけでもけっこうありますし、他にもありそうです。
大変美しく豪華な衣装が似合いますが、ちょっと細すぎるのが心配です(笑)
また、ヴロンスキー役のアーロン・テイラー=ジョンソンが、驚くほどに魅力的です。
若さとセクシーさとプレイボーイさがうまーく滲み出ていて、多くの女性が虜になるのも無理ないなと思ってしまいます。
対してカレーニン伯爵は、確かに若くもないし堅物でつまらない夫かもしれませんが、物語を見ていると、優しく非常に寛大な男性だなと感じます。
若い頃はプレイボーイ役の多かったセクシー俳優ジュード・ロウが演じているからか、マイナスな印象は受けませんでした。
画像引用元:fashion-press.net
個人的には、キティ役アリシア・ヴィキャンデルがとても可愛らしく、ヴロンスキーの心がアンナに奪われたときの表情などが、とても印象的でした。
彼女が出演している他作品はこちら↓
また、アンナの兄オブロンスキー公爵を演じるマシュー・マクファディンは、主演のキーラ・ナイトレイと共演した『プライドと偏見』で真面目な富豪を演じているので本作のキャラとのギャップが面白いです。
ふたりの女性の対比
本作の面白いところは、ふたりの女性の対比が上手く描かれている点もあると思います。
不倫をして破滅の道に進むアンナと、その彼女に恋人を奪われるも、最終的には幸せな家庭を築くキティ。
一見、農夫のリョーヴィンは口説くのも下手ですし、ヴロンスキーと比べると男性としての魅力が劣ってしまいますが、一度求婚に失敗してもずっとキティを想い続けてきました。
ヴロンスキーと破局した失意のキティがリョーヴィンと再会し、彼の変わらぬ愛を知って涙を流すシーンは、純愛を感じる感動の場面です。
リョーヴィン役のドーナル・グリーソンがまた本当にハマり役です。
また余談ですが、最終的にヴロンスキーの花嫁候補となる公爵令嬢ソロキナ役は、モデルとしても有名なカーラ・デルヴィーニュが演じています。
個人的に好きなモデルで、若く美しく、ちょっと性悪そうな雰囲気が、主人公アンナの心をザワつかせる役にピッタリでした。
画像引用元:fashion-press.net
『ボヴァリー夫人』の概要
原 題 :Madame Bovary
製作年 :2014年
製作国 :アメリカ、ドイツ、ベルギー
ジャンル:伝記、ラブロマンス、ヒューマンドラマ
上映時間:1時間58分
年齢制限:R15+
監 督 :ソフィー・バルテス
原 作 :フランスの小説家ギュスターヴ・フローベールの同名小説
メインキャスト
エマ・ボヴァリー – ミア・ワシコウスカ
シャルル・ボヴァリー – ヘンリー・ロイド=ヒューズ
レオン・デュピュイ – エズラ・ミラー
マルキ – ローガン・マーシャル=グリーン
ルウルー – リス・エヴァンス
オメー – ポール・ジアマッティ
画像引用元:IndieWire
あらすじ
修道院出の夢見がちな少女・エマは、情熱的な結婚生活に憧れて年上の医師と結婚するが、その生活は理想とは程遠い退屈なものだった。
ある日、美しい青年レオンと知り合い惹かれていくが、貞節を守り、彼は去ってゆく。
再び孤独になったエマだが、夫のもとを訪ねてきた資産家のマルキに口説かれ、ついに体を許してしまう。
やがてエマは心の隙間を埋めるかのように、不倫愛や派手な生活を渇望するが、それは悲劇の始まりだった。
ついに借金がかさんだことが夫に知られ、窮地に追い込まれるーー。
『ボヴァリー夫人』の個人的な感想
退屈な日々という牢獄
変化を好まず、愛情表現が乏しい夫は退屈な男かもしれませんが、DVなわけでもモラハラなわけでもなく、ただ医師としての仕事を真面目にしているだけで、特別悪いところがあるわけではありません。
主人公に共感できない場合、そんな夫に養ってもらっている身なのに、お金を散財し不倫してしまうという、ただの悪者にしか見えてきません。
では同じ立場に立ったらどうでしょうか。
まだ若く恋愛も未経験で、甘い結婚生活に憧れを持っていたとしたら・・・
ほぼ家の中で過ごし変わりばえのない生活。
家事は家政婦がやってくれるので、やることと言えば、近所を散歩したり、刺繍をしたり、ピアノを弾いたり。
心からの趣味じゃなければ、時間を潰しているようにしか見えません。
彼女は自己重要感が得られず、存在意義を感じられないのかもしれません。
「一生ここに閉じ込められたまま?」「罪なき囚人」「生ける屍」という台詞から伝わってきますが、ずっとこの生活で人生が終わるのかと想像したら、確かにゾッとしますね。
画像引用元:Cineuropa
身勝手な男たち
退屈な日々を送る中、趣味の合う同年代の男性レオンと知り合います。
ただの友達だったら良かったですが、レオンから想いを告げられて、迷いながらも最初は立場をわきまえて断ります。
するとレオンはそのまま旅立ってしまい、また虚しい生活がやってきます。
次は明らかにプレイボーイのマルキ。
最初こそ誘惑に打ち勝ちますが、結局自ら求めてしまいます(そうさせるマルキも見事だなと思いますが)。
しかしマルキに駆け落ちを断られ、絶望したエマは偶然レオンと再会し、彼とも不倫関係を続けてしまいます。
しかし、彼らはエマと結婚したい、彼女と添い遂げたいとまでは思っていないのです。
エマは彼らが本気で愛してくれていると思い込み、牢獄のような退屈な生活から連れ出してくれることを期待しますが、結局拒まれてしまいます。
男関係だけでなく、物欲もどんどんエスカレートしていきます。
商人のルウルーがエマをカモにしている感もよく伝わってきます。
最初は上手いことおだてて購買意欲を掻き立てますが、支払いが厳しくなってくると取り立ててくるように。
世間知らずなエマの自業自得ではありますが、利用された感も否めなくはないです。
画像引用元:European Film Gateway
『アンナ・カレーニナ』と『ボヴァリー夫人』の感想まとめ
不倫の先に幸福はない
2作品とも、主人公が自殺するというバッドエンドです。
ボヴァリー夫人は、結局愛人たちに見捨てられますが、アンナ・カレーニナは愛人との恋愛を成熟させます。
しかし周りから蔑まれ社交界に居場所を無くし、アンナは愛人ヴロンスキーの女性関係に疑心暗鬼となり、精神を病んでしまいます。
この2作品に限らず、不倫劇の結末で幸せを手にした作品は見たことがないので、教訓のようにも感じますね。
ただ、アンナの兄オブロンスキー公爵が不倫しても妻は容認しており、あまり不幸せそうでないところが例外的です。
しかもボヴァリー夫人は多額の借金を残して、アンナ・カレーニナは愛人との子供を残して逝きます。
両方の旦那が大変不憫です。
カレーニン伯爵は、最後我が子のように可愛がって育てている描写があるので、ものすごく懐が深いなと思いました。
ふたりの主人公の女性たちが、もう少し忍耐強く、伴侶とちゃんとコミュニケーションを取り、もし関係性を変えられていれば、幸せな未来が待っていたかもしれませんね。
画像引用元:AZCentral
働かざる者金を使うべからず
この2作品を見ていて思うのは「怠惰は人を破滅させる」ということです。
裕福な女性は特に、やることがなく自己概念も高いでしょうし、刺激を求めたり「もっと幸せになっていいはず」と非現実を求めてしまうように思います。
また、心から信頼できる友人がおらず、周りが敵ばかりのように見えるのも、悲劇の要因のひとつかもしれません。
アンナはまだ心優しい義姉がいますが、ボヴァリー夫人については、友に相談する描写はありませんでした。
それどころか、裕福でない町の人から冷たい眼差しを向けられるような描写があります。
強いて言えば、家政婦に愚痴をこぼすぐらいです。
手術が上手くいかず傷心の夫に冷たい態度を取ったり、彼が不幸の元凶だと不平を言ったり。
愚痴を聞かされたところで、身分の違う家政婦は共感できませんし、返答に困惑しているようでした。
画像引用元:fashion-press.net
悲劇の要因について「アンナ・カレーニナの法則」というものがあるので、少し紹介します。
アンナ・カレーニナの法則
小説の冒頭の言葉「すべての幸せな家庭は似ている。不幸な家庭は、それぞれ異なる理由で不幸である。」から来ており、成功(幸福)はいくつかの条件を満たすことで実現可能であり、失敗(不幸)の要因は様々である、ということを示している。
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